すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 自分で決めたリミットになっても、彼は現れなかった。連絡も入っていない。
 ひとまず帰宅することをメッセージに残し、お店を後にした。

 なにか、あったのだろうか。

 帰宅してリビングのテレビをつけると、しばらくした頃、臨時ニュースが飛び込んできた。

【――午前中に沖縄(おきなわ)那覇(なは)空港から中部(ちゅうぶ)国際空港へ向かう予定でしたが、悪天候により出発が遅れていました。午後になって天候が回復し、那覇空港を出発したのですが、飛行中に機体にトラブルがあった模様です】

「え?」

 たしか拓真さんは、沖縄から名古屋(なごや)に飛び、その後さらに別の便を担当して羽田に返ってくると言っていたはず。
 まさかと思いながら、画面に釘づけになる。

 天候が回復するのを待っていたとはいえ、すでに業務に就いている彼が私に連絡ができなかったのは当然だろう。

 嫌な予感が拭えない。両手をきつく握り合わせて、アナウンサーの言葉をひと言も漏らさないように耳を傾けた。

関西(かんさい)上空を飛行中に、急に電気系統が消失し……】

 それがどれほど危険な状態なのか。詳しくしらなくても、言葉だけで恐ろしい事態だと想像ができてしまう。

 新しい情報はまだないらしく、アナウンサーは最初に読んだ原稿を繰り返し続けている。
 途中で航空機の専門家とビデオ通話がつながり、踏み込んだ説明を始めた。

【以前とは違い、操縦不能にはならないように電気配線を分散させていますので、すぐにはどうこうならないでしょう。しかし、非常に不安定で危険な状態にあるはずです】

「そんな……」

【機体には独立したバッテリーが備え付けられているので、それが作動していれば三十分ほどは今の状態を保てるはずです。その間に近隣空港への着陸を目指すことになります】

 手がじわりと汗ばむ。

 どうか無事でいてほしい。私にはそう願うことしかできなかった。

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