すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
* * *

 この悪天候では、欠航になるかもしれない。
 俺が今いる那覇空港上空では、予報しきれないほどの速さで雨雲が発達して、激しい雷雨となっている。

 どちらにしろ、悠里との食事の約束はキャンセルになりそうだ。連絡を入れられない状況にあることがもどかしく、彼女への申し訳なさが募っていく。

 それからしばらくして天候は回復し、予定よりずいぶん遅れて中部国際空港に向けて飛び立った。

 関西上空に差し掛かったところで、天候が悪化した様子は見られないのに急に機体が激しく揺れた。

「なんだ」

 つぶやいた直後に、機内の照明がすべて落ちる。

「電気系統か」

 副機長が、すぐさまサーキットブレイカーをチェックしていく。それから管制塔へ、電気系統に何らかのトラブルが起きている状況を伝えた。

 APUという小型電力装置を作動させて、電力不足の回避に努める。
 運航に必要な最低限の電気器具のみを残して、ほかはすべてスイッチを切った。幸いなことに姿勢儀には問題がなく、水平飛行は保てている。

「どうして、こんなことに……」

 隣から失望したような声が聞こえてくる。

「前を向くんだ。今は機体を無事に地上に降ろすことだけを考えろ」

 電気系統のトラブルはずいぶん減っているとはいえ、パイロットは万が一に備えてしっかりと訓練を受けている。うろたえている場合ではないと発破をかけると、彼は落ち着きを取り戻した。

 実際にこんなトラブルに遭遇するのは、俺だって初めてだ。

 搭載していたバッテリーが作動しているおかげで、三十分ほどはこの状態を保てるだろう。
 逆に言えば、三十分が過ぎた時点でこの機体は制御不能となる恐れがある。それは副機長もわかっているはずで、彼が身を固くしているのが伝わってきた。

 飛んでいる地域から予想した通り、管制塔から大阪(おおさか)国際空港への着陸を指示される。交信をしている副機長の口調はしっかりとしており、大丈夫そうだと安堵した。
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