すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「まったく未練がないかといわれたら、今はまだわからない。けれど、仕事を通して現場で求められていることや苦労なんかを身をもって体験できたことは大きな収穫だ。この体験を生かして、現場の人間がもっと働きやすい職場を作っていきたいと思っている」

 彼は地に足のついた人だと、尊敬の念が強くなる。

 そんな話をしている間に、自宅の近くまで来ていた。

「今日は本当にありがとうございました。父も、柴崎さんにお会いできてうれしそうでした」

「また、見舞いに行かせてもらってもいいかな」

「もちろんです」

「それじゃあ」

 走り去る、柴崎さんの車を見送る。

 父が体調を崩してから今日まで、気分は暗く沈みがちだった。なにかを楽しむ気にはなれず、とはいえ父の前で暗い顔ばかりしていたくもない。
 自分でも、知らず知らずのうちに無理をしていたのだと思う。
 柴崎さんのおかげで、今夜は久しぶりに不安を忘れていられた。

 また、会えるだろうか。そんな期待に自然と笑みを浮かべていた。


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