すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 柴崎さんと食事をした二日後のこと。仕事が休みのため午前中から病室を訪れているタイミングで、再び彼がやってきた。
 
「雄大さん調子はどうですか?」

「ぼちぼちってところかな。拓真君も暇じゃないだろうに」

 もうすっかり声に力強さが戻ってきている。先日との違いを、柴崎さも感じたのだろう。安堵したように小さく笑みを浮かべた。

 父の言いようを失礼だとは捉えなかったようで、柴崎さんは「忙しいに決まっているじゃないですか」と笑う。冗談めいたやりとりができるくらい、ふたりの付き合いは長いようだ。

「悠里さんも、毎日お疲れ様」

「いえ。先日は、ごちそうになってしまいありがとうございました」

「俺はもう十分。メッセージでも伝えてくれただろ」

 父の視線を感じるが、あえて気づかないふりをしておく。
 一応、あの夜のことは父にも話してあるが、その後もメッセージもやりとりがあったことは明かしていない。

 疲労で倒れかけたところに居合わせたせいか、柴崎は父だけでなく私のこともずいぶん気にかけてくれる。
 あの夜、私が送ったお礼に対する返信をきっかけに、その後も【ちゃんと食事を食べている?】【調子は悪くないか?】とメッセージが途切れない。

 今日お見舞いに来ることも、昨夜のうちに知らされていた。

「なんだ。ずいぶん仲良くなったようだな」

「も、もう、お父さんったら、変な言い方をしないでよ。柴崎さんには親切にしてもらっているだけだって。ていうか、一方的に私が迷惑をかけてばかりなんだけど」

 冷やかすような父の口調にきまり悪くなって、過剰に反応してしまう。そんならしくない私を、父がくすりと笑った。
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