すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「悠里に、拓真君みたいなしっかり者の相手がいたらな。父さんもいろいろと安心できるんだけど」

「なっ、なに言ってるのよ」

 本人もいる前で、恥ずかしすぎるからやめてほしいと慌てた。
 じわじわと顔に熱が集まってくる。チラッと柴崎さんを覗き見ると、彼は父に対して苦笑していた。

「軽口を言えるくらい、雄大さんが回復したってことだ。よかった」

 大人の男性はやっぱり違う。柴崎さんは少しも動揺を見せることなく、サラリと受け流した。

「そうだぞ。だからな、悠里」

 今度はなんだと、密かに身構える。

「毎日来てくれるのはうれしいが、たまには気晴らしに出かけておいで。父さんのことは心配いらないから」

 茶化した雰囲気をすっと消して、父が真剣な目で私を見つめてくる。
 とてもそんな気分になれないというのに、言葉にはできなかった。

「それなら、俺が悠里さんを誘っても?」

「え?」

 父娘の緊張を破ったのは、柴崎さんだ。

「いいじゃないか! 若い者同士で、出かけておいでよ」

「お、お父さん!」

 柴崎さんに深い意味はないのは、私だってわかる。父を安心させたから、そう言ってくれたのだろう。
 それはともかく、冷やかすような雰囲気はを醸し出すのは本当にやめてほしい。

「悠里さんさえよければ、今日はこの後の時間を俺にくれないか?」

 素敵な男性は、誘い文句すらカッコいい。そんなふうに言われたことなんて一度もなくて、再び頬に熱が集まりだした。

 彼のまっすぐな視線と、父の冷やかすような視線にいたたまれなくなる。
 さすがにここで断る勇気はない。

「……お願いします」

 ずいぶん小さな声になってしまったけれど、ようやくそう返すとふたりとも笑みを浮かべた。
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