すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 しばらく走ったところで、どこへ向かうのかと尋ねてみたが、「楽しみにしていて」とはぐらかされる。
最初はまったく見当がつかなかったけれど、窓の外を眺めているともしかしてと気がついた。

羽田(はねだ)空港ですか?」

「正解。君のお父さんの仕事がどれほどすごいのかを、見せてあげたくて」

 前を見すえたまま口角を上げた彼の横顔が素敵で、ドキリと鼓動が跳ねる。

「といっても、もう何回も見てるかな?」

「いいえ。父はずっと仕事ひと筋で。自宅よりも職場で過ごしてきた時間の方が長いくらい。幼少期の私にとって、工場が遊び場だったんです」

 柴崎さんがくすりと笑う。

「小さい頃に空港へ連れて行ってもらったことはあるはずなんですが、あまり覚えていないですね」

 私たち親子は、ほかの家庭と比べると旅行もレジャーも出かける機会は少なかったと思う。飛行機に乗ったのも数えるほどで、遠くに住む親せきを尋ねたときくらいだ。

 周囲からは母親がいなくて大変そうだとか、かわいそうだと言われることもあった。でも父はいつだって私を大切にしてくれたから、これまでの生活に不満なんてまったくない。
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