すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 彼とは、数えるほどしか会っていない。

 危ないところを助けられるという衝撃的な出会いや、父と友人のような親しい関係を築いているという事実からか、最初から気になる存在だったのは否定しない。

「その……」

 ここのところ頻繁に柴崎さんのことばかりを考えてしまうのは、彼が絶えず私を気にかけてくれるから。それにこれだけ素敵な人だ。大人の男性に対する憧れの気持ちもあるのだろう。

「ん?」

 そう自分に納得させる傍から、わずか一音、その低く優しい声音を聞いただけで胸が高鳴ってしまう。

 単純すぎるでしょと、内心で自分にあきれる。

 もしこの気持ちが明確になってどんどん想いを募らせていったとしても、受け入れてもらえるはずがない。彼はただ、私を恩人の娘とくらいにしか見ていないのだから。

「私も父も、あなたの存在にずいぶん助けられました。本当にありがとうございます」

 彼とは、父ありきの今だけの関係だ。芽生えた淡い気持ちは、今なら忘れてしまえるはず。

「そんな大げさに思わなくていいよ。俺だって、雄大さんにはずいぶん支えられてきたんだから」

 熱意ある若者を無条件に応援したくなるのは、父の性だ。ふたりの間には、聞かせてくれた話意外にもエピソードがあるのだろう。

 娘としては父の言動が誇らしいけれど、やっぱり彼は恩義から私にもよくしてくれるのだと思うとチクリと胸が痛んだ。
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