すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 もうしばらく飛行機を眺めた後に、柴崎さんは食事に連れて行ってくれた。

 空港に近いホテルの最上階にあるレストランで、窓から滑走路が見えている。
 すっかり暗くなった今は、点々と誘導灯が見えている。それが幻想的で、都会の夜景とはまた違った感動を覚えた。

「――今は会社の仕事も担っているから、パイロットとしては最低限の時数だけ飛んでいる状態かな」

「二足のわらじは、大変じゃないですか?」

 気を悪くされないか配慮しつつ、少しだけ柴崎さん自身について尋ねてみた。

「もちろん大変だよ。パイロットの仕事は不規則だし、国際線だとフライト先で数日滞在することになるから、自宅に帰れない日も多い」

 さらに時差もあるし、負担は大きそうだ。

「でも、自分で選んだ道なんだ。いずれ父の後を継ぐことになるが、本社にこもって字面だけ追ってすべてを知ったようなトップにはなりたくない。実際に現場を見て、そこで働く人の話を聞いて、多くのスタッフに支えられていることを理解した上で会社を運営していく。俺は父のそういう方針を尊敬している」

 お父様自身も会社を継ぐ際には同じように教えられたらしく、川島金属機器もそこで知ったのだという。柴崎さんほど密ではないものの、父は彼のお父様とも付き合いがあるようだ。

 持って生まれた家柄や立場に驕らず、自ら大変な道を選ぶ柴崎さんへの尊敬の念が大きくなる。見た目だけでなく中身でも完璧だなんて、憧れないわけがない。

「まあ、なんだかんだ言っても好きな事をしているだけだから、苦にならないんだけどな」

 私よりもずっと大人の男性が、少年のような笑みを見せる。そのギャップはずるい。無邪気な表情に、落ち着きかけていた鼓動がひと際大きく跳ねた。
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