すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 それから話題は移り変わり、今度は柴崎さんが私の趣味を尋ねてきた。

「趣味というほどじゃないですけど、料理は好きですね。父は料理があまり得意じゃないので、自然と私が作るようになったんです。新しいレシピを試すのが楽しくって」

「ああ、酔った雄大さんがよく自慢していたよ。娘の作る料理は絶品だって」

 柴崎さんになにを聞かせているのかと、父が恨めしくなる。

「父は、柴崎さんに迷惑をかけていないですが」

「ぜんぜん。飲んでいるとどんどん饒舌になって、いろいろな話を聞かせてくれるからおもしろい。俺も、悠里さんの作る筑前煮を食べてみたいな。彼にさんざん美味しいと聞かされているうちに、気になって仕方がない」

 柴崎さんは、ものすごく人たらしじゃないか。
 きっと本気で食べたいと思っているわけじゃなくて、リップサービスのようなものに違いない。父の娘である私への気遣いだ。
 父には、ところかまわず余計な話をしないように釘を刺しておかないと。

「そ、その。いつか、機会があったら」

「楽しみにしている」

 これは社交辞令だ。深い意味なんてない。
 それ以上どう返していいのかわからず、曖昧な笑みを浮かべてこの場をやり過ごした。

 食事を終えると、以前と同じように彼は自宅まで送り届けてくれた。



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