すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「昨日はどうだったか? 拓真君はいい男だったろ」

 翌日、父の病室へ入ると満面の笑みで迎えられた。

「もう……お父さんが変な言い方するから、柴崎さんは私を誘わざるをえなかったんじゃない」

「じゃあ、父さんがキューピッドってわけか」

「なに言ってるのよ。彼とは、なにもないから」

 元気を取り戻しつつあるのはうれしいけれど、そのニヤニヤとした笑みはやめてほしい。

「拓真君は本当に律儀でな。悠里を送った後に、父さんにちゃんと報告のメッセージをくれたぞ。あれほど誠実な男を、父さんはほかに知らないな」

 たしかに、彼は父の言う通り信頼できる人だ。

 父は冗談交じりで私たちをくっつけようとしているようだが、彼がそうやって筋を通すのは私が娘だからだ。父ありきの関係にすぎない。

 一緒に出掛ける機会も、この先はもうないだろう。
 そう思っていたが、柴崎さんからの連絡はそれからも途切れなかった。

【土曜の午後の予定は空いている?】

 柴崎さんにメッセージでそう聞かれて、戸惑いを隠せない。
 また誘ってくれるのだろうか。そんな期待を必死に押しとどめながら、お見舞いへ行った後は空いていると素直に答えていた。

【付き合ってほしい所があるんだ】

「どこだろに行くんだろう?」

 時間があるのを知られているのだし、断るのもおかしい。というのは、いいわけかもしれない。
 柴崎さんのことをもっと知りたい。そんな好奇心もあり、彼の誘いに応じることにした。

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