すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 父の病気で沈みがちな気分も、手術の成功と彼の存在に明るくなる。
 明日はいよいよ約束の週末だと思うと、仕事もずいぶんはかどった。

「悠里ちゃん。今夜も兄さんのお見舞いかい?」

 ほかの人が出払った事務所内で、叔父に声をかけられた。これまでも彼は父の病状を尋ね、何度か励ましてくれている。

「はい」

「毎日、ご苦労様。悠里ちゃんも、無理しすぎないように」

「ありがとう。それよりも、哲二叔父さんにはすっかり仕事を任せっきりで申し訳ないです。お父さんも、ずいぶん気にしていて」

 社長代理を務める叔父には、仕事が集中している。対外的な付き合いも彼がほとんど引き受けてくれているため、帰宅時間も遅い日が増えているようだ。

「そんなことよりも自分の体を治すことを一番に考えるよう、兄さんに伝えておいてよ。こっちこそ、なかなか見舞いに行けなくてすまないな」

「いいえ」

 気にしないでほしいと手を振る。
 叔父は手術後に一度、父を見舞ってくれた。多忙な現状を考えたら、気持ちだけで十分だ。

「なにか困ったことがあったら、いつでも言ってくれよ」

 そう言いながら、叔父は自分の仕事に戻っていった。

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