すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 翌日は、お昼ご飯を早めに済ませて病院へ向かった。柴崎さんは二時頃に病室へ尋ねて来る予定だ。

「なんだ、悠里。いいことでもあったのか」

 私の顔を見るなり、父は開口一番にそう言った。

「べ、べつに。お父さんの調子がよさそうで、安心しただけだよ」

「ああ。たしかに体はずいぶん軽くなったし、なにかをしたいっていう気力も出てきた。そろそろ退院できそうかなと、今朝の回診で先生もおしゃっていたぞ」

「本当? よかった」

 治療はまだまだ続くが、ひとまず自宅に帰れるというだけでほっとする。

 しばらくすると、柴崎さんがやってきた。
 その瞬間の父の目といったら。まるで今日も出かけてきたらどうだと、冷やかしているようだ。事実、そうする予定だからきまりが悪い。

「こんにちは、雄大さん、悠里さん」

 今日の彼は仕事が休みで、ブラックのパンツに白いシャツというラフな格好をしている。シンプルないで立ちが、彼のスタイルを引き立てている。

「おお、拓真君か。君も、何回も来てもらってすまないな」

「ようやく大仕事が片づいて、比較的時間の自由が利くようになったんです」

 退院して元気になったらまた飲みに行こうと話す父に、「雄大さんは、しばらくソフトドリンクで」と返す。

「なかなか手厳しいな」

「雄大さんには、元気になって川島金属機器を守ってもらわなくてはいけないので」

「ははは。そうだな」

「それに、まだ雄大さんとの約束を果たせていないですから」

 どんな約束かと首をかしげたが、楽しそうなふたりの話の腰を折るのは無粋だ。
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