すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「私が選んでいいんですか? センスとか、まったく自信ないんですけど」

「自分で選んでいると、どうしても好みの系統ばかりになってしまうんだ」

 彼には今、意中の相手はいないのか。私と出かけることで、誰かに勘違いさせては申し訳ない。

「その、今さらですが、柴崎さんの大切な方に選んでもらわなくていいんですか?」

 ずるい聞き方だとわかっている。
 正面から恋人の有無を尋ねる勇気がなくて、探るような質問になってしまった。

「そんな相手はいないから。だから悠里さんにお願いしたいんだ」

 彼の言葉をどう捉えていいのかわからない。

 とりあえず嫌われてはいないようだし、恩人の娘として尊重してくれている。『雄大さんは、俺にとってもうひとりの父親のような存在なんだ』とも言っていたくらいだ。もしかして私は、彼にとって妹のように感じる相手かもしれない。

 私に好意を伝えるつもりはないから、そんなふうに思われていてもかまわない。センス良くネクタイを選ぶ自信はないけれど、彼が望んでくれるのなら精いっぱい応えたい。

「変なことを聞いて、ごめんなさい。私では力不足かもしれませんが、がんばります」

 気まずくならないようにちょっとだけお茶らけた口調で言うと、柴崎さんは前を見すえたまま頬を緩ませた。

 訪れたのは、銀座(ぎんざ)にある老舗の紳士服店だ。オーダースーツのお店で、ワイシャツやネクタイ、ビジネスバッグに革靴も取り扱っている。

 彼のお父様の代からお世話になっているお店らしく、店主は顔を見ただけで「いらっしゃいませ、柴崎様」と彼が誰であるかわかっていた。
< 33 / 183 >

この作品をシェア

pagetop