すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「普段はどんな感じのものが多いんですか?」

「そうだな。青系のものが多いかな。それから細かい柄のもの」
チラッと見えた値札にびっくりする。目の前に並ぶのは、かなり高級なものばかりだ。だからどれをとっても間違いないはず。

「スーツのお色は?」

「それはいくつかあるから、逆にネクタイに合わせるよ」

 仕事に対する意気込みや若さを感じられるもの。それでいて、若輩者だと侮られないスタイリッシュなデザインがいい。なかなか難しいけれど、彼の期待に応えたくてじっくりと吟味していく。

 今着ている白いシャツをワイシャツに見立てて、選んだネクタイを首もとに当ててもらう。彼はその都度「どう?」と尋ねてくるけれど、どれも似合っているから困る。「素敵です」と同じ返答の繰り返しになってしまうのが申し訳ない。

 たくさん悩んで、最終的に二本に絞り込んだ。どちらも派手過ぎない光沢のあるものだ。
 これからの季節に合わせて、秋らしいダークブラウンを基調とした落ち着いた雰囲気のものと、シルバーにちかいスモークグレーの繊細な柄の入ったものだ。

「どっちがいいかな……」

 二本を比べて悩む私を、隣に立つ柴崎さんがくすりと笑う。

「どちらも俺は持っていない感じだな。甲乙つけがたい」

「ですよね。両方とも素敵で」

 あとはワイシャツやスーツとの相性しだいだと思いながら、彼を見上げる。
 視線が合うと、彼は目を細めた。

「悠里さんが俺のためにせっかく選んでくれたんだ。二本とももらっていくよ」

「え?」

 戸惑う私をよそに、柴崎さんが手もとから二本のネクタイを奪っていく。
 このお店で扱われているものは、私がたまに父にプレゼントするネクタイとは価格がまるで違う。一本数万円もするというのにと、困惑した。
 そうしている間にも、彼はさっさと支払いを済ませていた。
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