すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 予定通り、父は無事に退院することができた。

「おお。やっぱり、うちはいいな」

 そう言いながら、ソファーの定位置に座る。リビングには飛行機の模型がいくつか飾られており、父がうれしそうに眺めている。

「ひとりだと持て余し気味だったから、お父さんが帰って来てくれて本当によかった」

 母が生きていた頃から住んでいるこの一軒家は、父娘のふたりで暮らすには広すぎる。そんなところにひとりで過ごしていれば、この歳になっても心細くて寂しく感じていた。

「そうだ、お父さん。柴崎さんが、退院のお祝いに来たいって」

「あいつは本当に律儀なやつだな。また飲みに行けばいいだろうに」

「病み上がりのお父さんを、居酒屋に誘うわけがないでしょ。私もいる土曜日の午後が空いているから来たいって」

 彼はわざわざ、私もいる日を選んで来てくれる。そこに深い意味なんてないだろう。そうわかっていても、どうしたってうれしさが込み上げてくる。


 数日が経ち、柴崎さんが自宅へやってきた。

 父の待つリビングに彼を通し、キッチンで飲み物と茶菓子を用意する。ついでに彼が退院祝いに持ってきてくれた秋ならでは豪勢なフルーツの盛り合わせから、柿と梨をカットした。

 準備ができてリビングへ行くと、ふたりは真剣な顔をしてなにか話し込んでいたようだ。私に気づいた柴崎さんが、一転して穏やかな笑みを浮かべた。
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