すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「それにしても、拓真君は律儀なやつだな」

 テーブルに並べた梨に手を伸ばしながら父が言う。
 父はあらためて豪勢な退院祝いにお礼を言いつつ、「俺と拓真君の仲なのに、気遣いは不要だ」と付け加える。決して咎めている様子ではなくて、柴崎さんなら手ぶらで来てもいいくらいなのにと、親密さをうかがわせる雰囲気だ。

「雄大さんから見たら若造だろうけれど、一応俺も社会人ですから。不作法な振る舞いはできませんよ」

「あっという間に、立派になってしまうものだな。俺は、拓真君がこんなに小さい頃から知っているんだぞ」

 そう言いながら、父は右手を座った自身の胸の高さに掲げてみせる。

「親しき仲にも礼儀ありですよ。今日はきちんとしていますが、今後はまた息子でいさせてもらいますから」

 病院にいるときのやりとりから、ふたりがいかに親しいかは感じていた。私は見たことがないけれど、お酒が入るともっと砕けたやりとりになるのかもしれない。父をちょっとうらやましく思ったのは、ここだけの話だ。

「おう。拓真君なら、本当の息子になってもいいくらいだ。俺は大歓迎だぞ」

 そこで父が、私に意味深な視線を送ってくる。つまり、私と結婚して義理の息子になってもかまわないと言いたいのだろう。

 気まずくなるような振る舞いは本当にやめてほしい。柴崎さんにも失礼だと、父に返す視線を鋭くした。

「雄大さん」

 父と私が無言でやりとりする中、柴崎さんが声をかけてくる。

「俺が悠里さんを守りますから、雄大さんは安心して体の回復に専念してください」

 それって……とあぜんとする。
 これではまるで、交際や結婚を示唆しているようだ。
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