すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「拓真君がついているなら、俺の出番はないな。悠里にはいつも負担をかけてばかりだったから、そろそろ自由に過ごしてほしいと思っていたのにこのざまだ」

 悪ノリするのはやめてほしいが、父の視線が手術をした箇所に向けられるのを見て口をつぐむ。
 チラッと柴崎さんの様子をうかがうと、彼は眉尻を下げて父の視線を追っていた。

「これからも、悠里を連れ出してやってくれるとうれしい」

「お、お父さん。私、行きたいところがあったら勝手に行くし、やりたいことも遠慮なくするから。そんな柴崎さんに迷惑なことを言わないでよ」

 反発する勢いはなくなっていたものの、柴崎さんの手前なにも言わないわけにはいかない。

 慌てる私を見て、彼がくすりと笑う。

「迷惑だなんて思っていないよ。雄大さんもこう言ってくれているんだ。今後も、悠里さんを誘わせてもらうから」

 うれしさに表情が緩みそうになる。でもそんな顔をふたりに見られたくなくて、さっと背けた。

 それから、ふたりの話題はほかのことに移り変わっていく。私はたまに相槌を打ちながら、考えにふけっていた。
 きっと病気で父が弱気になっていることを、柴崎さんも感じ取っていたのだろう。だから彼は、父の意を汲んで私を何度か連れ出してくれた。さらにその時の話を聞かせることで、父を安心させてもいた。

 彼の私に対する振る舞いは、父編の恩義ありきのものだ。それは最初からわかっていたはずなのに、どんどん胸が苦しくなっていく。

 でも、ここで私が落ち込むのは違う。一方的に彼を好きになってしまった、私の身勝手だ。
 そうわかっているのに、優しくなんてしてくれなくてよかったのにと、彼に対して八つ当たりのように思ってしまう。
 知られたくないどろどろとした感情を隠すように、常に口角をあげ続ける。
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