すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「そろそろ、お暇しますね」

 柴崎さんの言葉にハッとした。

「来てくれて、ありがとうな」

「次に会うときは……美味しいごはんでも食べに行きましょう」

 暗にアルコールはダメだと仄めかして、柴崎さんが笑う。

「少しくらい、いいだろ?」

 それなのに父は、ピッチャーを傾ける仕草をしてみせた。

「お父さん?」

 冗談っぽくあったとはいえ、せっかくの彼の気遣いを台無しにする父をジロリと見やる。わざと大げさな振る舞いをした私に、父が慌て始めた。

「ごめん、ごめん――拓真君、楽しみにしてるよ」

 調子のよい父に、「もう」と苦笑する。

「約束ですよ。そうだ、悠里さんもまた誘っていいかな? ほら、雄大さんのために陰に日向にずっとがんばっているから。たまには君も、息抜きをしないとな」

「おお、いいぞいいそ。どんどん連れ出してやってくれ」

「ちょっと、お父さん――すみません、柴崎さん」

 こういう場面で茶化さないでほしいと訴えているのに、父はまったく聞く耳を持たない。仕事中はいたって真面目な人だが、本当はお調子者なところがあるのだ。

「雄大さんは許してくれてるけど、どう?」

 柴崎さんが私に問いかける。

「……よ、よろしく、お願いします」

 これ以上、彼を好きになってしまわないように断るべきだ。

 けれど親のいる場でそんなことをするのは、彼にも失礼だ。話の流れ的にも応じるような雰囲気になっているし……と、心の内でもっとものような顔して言い訳を重ねる。

「よかった。それじゃあ、また連絡するよ」

 隣でニヤニヤとする父には、いっさい気づかないふりをする。

「来てくださって、ありがとうございました」

 颯爽と帰っていく彼の背中を、複雑な気持ちで見送った。
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