すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 自室でひとりになり、ようやく冷静さを取り戻す。

 さっきの柴崎さんの誘いもまた、社交辞令だったのだろう。
 父親の冷やかしと好きな人を前にした緊張で、あの場ではそんな簡単な事実すら思い浮かばなかった。真に受けて、まともに返してしまったことが恥ずかしい。

「もう、やだ……」

 父のように冗談っぽくすればよかったと、今になって羞恥心に襲われる。
 次に同じような空気になったときは……と考えかけて、もうそんな機会は二度とないのかもしれないと肩を落とす。

 寂しいけれど、顔を合わせることはないだろうから吹っ切ろう。そう思っていた私に、夜になって再び柴崎さんからメッセージが届いた。

【来週末の日曜日、予定は空いている?】

 連絡が来るなんて思っていなかった。

 瞬時に膨れ上がった期待は、すぐにしぼんでしまう。
 この誘いは、絶対に父のせいだ。あからさまに冷やかす父のいたずらな言動が、私を誘わざるをえない状況に彼を追い込んでしまった。

「断るべきかな……」

 そうわかっていても、せっかく声をかけてくれたのにという気持ちが拭えない。
 もしかして彼だってあと一回くらい私を誘っておけば、後に父と会った時に面目が立つのかもしれない。

「これが最後だと思って一緒に出掛けたら、ダメかな」

 なかなか諦めがつかない。想いを告げるつもりはないという決意とは矛盾するが、往生際悪く足掻いてしまう。
 あと一回だけ、素敵な思い出を作るチャンスがほしい。

「はあ」

 自分勝手な考えに、重いため息が漏れる。
 それでも彼の方から声をかけてくれたという事実を言い訳に、この一回だけは誘いに応えようと決めた。

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