すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 目的地に到着し、車を止める。まずは中華街へ繰り出した。

「小さい頃に連れて来てもらってるはずなんですけど、まったく記憶になくて」

「それならちょうどよかった。ここは見ているだけでも楽しいんじゃないかな」

 柴崎さんの横に並び、入口の門をくぐる。カラフルで賑やかな街並に、心が弾んだ。
 修学旅行生らしき制服姿の学生さんも多く目につく。なにに集まっているかとこっそり覗くと、いかにも写真映えしそうなグルメやスイーツが目に入った。

「ほしいものとか、食べたいものがあったら言ってよ。ああ、でも後で美味しい中華料理店に連れていく予定だから、お腹の余力は残しておいて」

 彼のおどけた言い方が面白くてくすりと笑う。
 それならと選んだのは、ひと口大のパイナップルケーキだ。中にたっぷり入ったパイナップルジャムあの甘酸っぱさが絶妙で、ほろほろとしたクッキー生地も美味しい。

 感動を伝えたくて柴崎さんの方を見ると、視線の合った彼は「美味しいね」と目を細めた。
 その優しい表情にドキリとしつつ、さらに散策を続けた。

 ランチに連れて行ってもらったレストランの料理はどれも美味しくて、つい食べ過ぎてしまう。それは彼も同じだったようで、この後もたくさん歩けばいいと笑い合った。

 最初は緊張していたけれど、次第に打ち解けていく。いつの間にか恋愛感情を意識せず気楽に過ごせていたのは、彼が気やすい雰囲気でいてくれるからだろう。最後の思い出作りとしては、上出来だと思う。

「このまま歩いて行くのでもいいかな?」

 レストランを後にして、彼が言う。

「もちろんです。というか、歩きたいです」

 お互いに食べ過ぎたのはわかっている。
「だよな」と笑った彼は、それから山下(やました)公園へ連れて行ってくれた。

 
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