すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 言葉少なに、園内をゆっくりと歩いて回る。ここへも幼い頃に来ているはずだけど、やっぱり記憶にほとんどない。

 都会にありながら自然豊かな風景を前にして、心が和む。
 父がようやく退院できたとはいえ、不安はいつだってつきまとう。仕事のことや柴崎さんとの関係なんかをいろいろと考えすぎて、ここのところの私は心身ともに疲弊していたらしい。
 その悩みのひとつとなっている彼が隣にいるとはいえ、久しぶりに晴れ晴れとした気分だ。

 散策を楽しんだ後に、見晴らしのいい場所に置かれたベンチに落ち着いた。

「のどかですね」

「ああ。日常を忘れていられる」

 隣に座る彼をこっそり覗き見る。柴崎さんはベンチに背を預けて、遠く海の向こうを見つめていた。
 気づかれないうちに視線を外し、行き交う人や自然に目を向ける。空にはいくつかの白い雲が浮かび、ゆっくりと流れていく。

 たわいもない会話を交わしているうちに、不覚にも眠くなってきた。
 頭を揺らした私を、彼がくすりと笑う。

「いつもがんばっているから、疲れが出たんだな」

「ご、ごめんなさい」

「謝る必要はないよ。気を許してくれていることがうれしいな。俺も、悠里さんの隣にいると日常を忘れてリラックスできる」

「それは、どういう……」

 彼も私に好意を抱いていると、期待してもいいのだろうか。妹のように、緊張しないでいられる相手ではないと信じたい。

「落ち着いたら、話をしたいと思っていたんだが――」

 彼がなにかを言いかけたそのとき、頬にぽつりと滴が落ちてきた。それは柴崎さんも同じだったようで、そろって空を見上げる。
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