すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 小さく噴き出した私につられるように笑った柴崎さんだったが、突然目を逸らして口もとを手で覆った。

「どうかしました?」

 不意によそよそしさを醸す彼に、首をかしげる。なにか気に障ることでも言ってしまったのかと、急に不安になってきた。

「その……濡れて、透けてしまっている」

「え?」

 視線を自身に向けると、薄手の白いセーターはぐっしょりと濡れて下着の形があらわになっている。同じ白い下着をつけているなんて、なんの慰めにもならない。レースの柄までしっかりと浮き出てしまっていた。

「ご、ごご、ごめんなさい」

「いや、こっちこそ配慮もなく悪かった。ちょっといいか?」

「は、はい」

 そう言ってできる限りこちらを見ないように振り返った彼は、私の手にしていた鞄からストールを取り出して体に巻き付けてくれた。

「あ、ありがとうございます」

 申し訳なさは込み上げてくるが、とにかく気まずくて視線を合わせられない。
 それは彼も同じだったのか、再び視線を空に向けていた。

「すぐには止みそうにないな」

「もうしばらく、ここで待つしかなさそうですね」

 なんとか平静を装って返す。
 もう十一月に入ったというのに、天気が不安定になることが多い。雨雲はどこまでも続いているようで、しばらくは止まないだろう。

「ごめんな」

「そんな、謝らないでください。これもまた、後に笑い話にできる思い出です」

 柴崎さんが気に病まないように、明るい口調で言う。

 きっと、今日が彼とこんなふうに過ごす最後になるだろう。しんみりとするより、印象深いエピソードがあった方が楽しい思い出として気持ちに蓋をできそうだ。
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