すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「そう言ってくれると、気が軽くなるよ。そうだ、今日のお詫びに今度は服をプレゼントしよう」

「そんな、柴崎さんのせいじゃないですし」

 手をぶんぶん振って遠慮する。
 次があるのかという驚きは、なんとか表に出さないでいられただろうか。

「君にプレゼントできる口実ができて、俺がうれしい。なんて言ったら、悠里さんは怒るかな」

「え?」

 それは父への恩返しからくる気持ちなのかと、困惑する。

「許してくれそうだね」

 私がなにも返せないから、会話が途切れる。でも大雨と雷の轟音のおかげで、気まずい不自然さはない。むしろ今の私には、大きな声で話しても聞き取れないくらいの状況がありがたいくらいだ。

 しばらくすると、少しずつ雨が弱まってきた。遠くの方には、青空が見え始めている。

「よかった。もうすぐ上がりそうだ」

 心底ほっとしたような声で、柴崎さんが言う。

「ですね……くしゅん」

 口もとを覆いながら、ぶるっと体を震わす。体はすっかり冷えてしまい、ストールを握り合わせる手は冷たくなっていた。

「まずい、風邪を引かせてしまうな」

 まるで自分のせいだとでもいうような口調だ。大丈夫だと返そうとしたそばから、もう一度くしゃみが出る。

 風邪くらい平気だと言いたいところだけど、自宅に病み上がりの父がいる。まだ本調子でない父にうつってしまわないか心配だ。

 わずかに逡巡した彼は、スマホの操作をする。このままではいけないからと、雨が止むとすぐに私の手を引いた。

 そうして連れていかれたのは、私たちがいた場所から近いホテルだった。
< 50 / 183 >

この作品をシェア

pagetop