すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「暖を取れそうなところが、ここしかなくてすまない。あのままでは、風邪を引いてしまうから」

 ここへ来たのは親切心からで、他意はない。そう理解しているし、彼自身もはっきり言っていた。

 動揺しているのは私だけで、彼はいたって冷静だ。下心なんて微塵も感じられないし、そもそも私相手に彼がそんな気になるとは思えない。

「服が乾くまで、申し訳ないがここで過ごそう」

「そ、そうですね」

 彼に促されて、先にバスルームを使わせてもらう。寒さも限界で、服に震える手をかけた。

 指定された袋に入れて、クリーニングに出すと言われている。追加料金を払えば数時間で仕上げてくれるらしいけれど、さすがに下着は入れられない。乾いたタオルでなんとか水気を切るしかないだろう。

 この状況に鼓動は痛いほど暴れていたが、それよりも体がどんどん冷えていくため早く温まりたい。

 ようやく脱ぎ終えて指先でお湯に触れると、ジンジンと痛みのような感覚が広がった。
 慣れてくると、温かさを実感してほっとする。

 しっかりと温まったところで、ようやく浴室を後にする。気恥ずかしくてたまらなかったが、あらかじめ用意されていたバスローブを纏って部屋に戻った。

「遅くなって、ごめんなさい。柴崎さんも、どうぞ」

 そそくさと場所を譲る。彼が浴室に向かうのを見届けると、肩の力がわずかに抜けた。

 ふたりがけのソファーに近づく。肘置き部分にできるだけ体をもたせ掛けるように、端に座った。
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