すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 室内をそっと見回す。部屋はそれほど広くはなくて、同じ室内にベッドが鎮座している。できるだけそちらを見ないようにしているものの、どうしても意識してしまう。

 そうこうしているうちに、浴室のドアが開く音が聞こえてきた。

「もう寒くはない?」

 隣に座りながら、彼が尋ねてくる。

「は、はい」

 当然、柴崎さんもバスローブ姿だ。

 緊張しすぎて、あからさまに声が裏返ってしまったのが恥ずかしくてたまらない。滑稽な姿をさらしているだろうに、彼はそれに触れずにいてくれた。

「よかった。服の方は、三時間くらいで仕上がるそうだ」

「任せっきりで、すみません」

「いいや、かまわない」

 その会話を最後に、沈黙に包まれる。
 そわそわして落ち着かない。なにか話さないと、と焦ってしまう。

「きょ、今日は、ありがとうございました。中華街はすごく賑やかで楽しかったです」

「よかった」

「料理もすごく美味しかったし」

 かつてないほど饒舌になる自分を止められない。

「公園もとにかく広くて、たくさん歩いたのもいい気分転換になりました」

「そうだね」

 こんなにしゃべり続けられるなんて、呆れられるだろうか。
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