すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 約束の当日の朝。いつもよりもほんのちょっと女性らしくて畏まった服を着た私に、父が意味深な視線を向けてくる。それをあえて平然とした顔でやり過ごす。

「夕飯は、冷蔵庫に作り起きしてあるからね」

「ありがとうな」

 向かい合わせで朝食を食べながら、父に説明しておく。
 外で食べてくると言われたが、これまでの様子から食べずに済ませかねない。
 父には、できる限り健康に気遣った生活をしてほしい。だから私が、昨夜のうちに用意しておいた。 

「あまり、遅くならないようにするから」

 おそらく、食事をするくらいだろう。彼の性格から考えても、常識的な時間に帰されるはず。

「悠里ももう大人なんだから、父さんに気にせずゆっくりしておいで」

 父としては深く考えずに発した言葉かもしれないが、〝大人なんだから〟なんて言われるといろいろと意識しそうになる。

 今夜の約束も、柴崎さんから父にも連絡が入っていた。律儀な人だなと思う。だからこそ彼は、フェードアウトする道を選ばなかったのだろう。
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