すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 デザートのガトーショコラを食べ終えたところで、柴崎さんがすっと居住まいを正した。いよいよ本題かと、私も彼に向き直る。

「アメリカに行くことになったんだ」

「え?」

「ここのところ忙しくしていた件とも関係するが、長くかかりそうなんだ

 つまり今夜の彼は、最後の別れを告げに来たのか。胸の苦しみが、表情に出ていなければいいけれど。

「帰国したら、君に伝えたいことがある。それまで待っていてほしい」

「伝えたい、こと?」

「ああ」と穏やかに微笑んだ柴崎さんに、蓋をしたはずの気持ちが溢れそうになる。

 彼は父の知り合いで、私との関係はお見舞いを通してできたおまけのようなものにすぎない。だからなにかを期待してはいけないと、必死に自分に言い聞かせる。

 でも勘違いでなければ、私を見つめる彼の目に熱がこもっているような気がする。この状況に、もしかして彼も私と同じ気持ちを抱いているのかと性懲りもなく希望を抱く。

「向こうに渡ってしばらくは、バタバタするだろう」

 相当大変なようで、柴崎さんが表情を曇らせる。

「時間はかかるだろうが、落ち着いたら必ず連絡をいれると約束する。だから、待っていてほしい」

 遠距離になるとわかっていながら交際を始めるのは、最初からなかなかハードルが高い。それに彼としては、今は仕事に集中したいときなのかもしれない。

 話は帰国してからだ。そう彼が言うのも、事情を思えば理解できた。
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