すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「悠里」

 自宅の近くの駐車場で車を止めて、柴崎さんも降りてくる。父はもう寝ているかもしれないから、挨拶は遠慮するという。

「雄大さんのこともあって大変だろうが、どうか無理はしないで」

「……はい」

 そう言われると、私たちの出会いを思い出す。あの頃の私は、すっかり憔悴しきってフラフラになっていた。

「遠く離れてしまうが、一日たりとも君を忘れない」

 目を見開く私を、柴崎さんが抱きしめながら見下ろしてくる。

「帰ってきたら、真っ先に悠里に会いに来るから」

「……待って、います」

 気恥ずかしさに耐えて、やっとの思いで伝える。
 フッと表情を緩めた彼は。それから私の額に口づけた。

「おやすみ、悠里」

「おやすみ、なさい」

 私が家に入るまで見届けるという彼の言葉を呆然と聞きながら、背中を向ける。

 彼の出国は平日のため、見送りはできない。これでしばらく会えないのだと思うと、恋心はすっかりあきらめていたはずなのに、切なさでいっぱいになった。


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