すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 ぼんやりとしたまま数日が過ぎた。

 心労が祟ったのか、少し熱もあって体がだるい。なにも手がつかず、食事もあまり喉を通らない。たまに吐き気もあり、自分がいかに弱っているのかを痛感した。

 父がいつも使っていたマグカップや、リビングに飾られた飛行機の模型を見るだけで涙が滲む。前を向かなくてはと思うのに、寂しさと不安に潰されそうになる。

 けれど、いつまでも感傷に浸って引きこもっているわけにはいかない。ぼんやりとしているうちに規定の日数の休みが明けてしまい、久しぶりに出社をした。

「悠里さん、もう落ち着きました?」

「大丈夫?」

 顔を合わせた複数の従業員が、口々に心配そうに声をかけてくれる。彼らがそろって事務室の方へ視線を向けて顔をしかめたのは、父という会社の大黒柱を失った不安からだろう。

「長く休んでしまって、すみません。今日からまた、よろしくお願いします」

 事務所の扉を開けて、中に入る。小さな会社だから、社長以外は役職に応じた個室があるわけではない。もちろん来客用の個室は別にあるが、副社長も事務職もこの部屋につめている。

 もっとも父は、従業員との関係づくりを大切にしていたのもあり、この部屋に自分のデスクを用意して過ごしていた。

「おはようございます」

「ああ、悠里ちゃん。おはよう」

 叔父がにこやかに迎えいれてくれる。その近くで、入口に背を向けていた女性が立ち上がった。
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