すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 叔父の客だろうかと首をひねっていると、振り向いた彼女がにこやかな笑みを浮かべる。

「川島先輩、お久しぶりです」

 見覚えがあるようなと、記憶をたどる。

「高校の後輩の、宮野(みやの)です」

「ああ、宮野さん」

 そうだと思い出したものの、なぜ彼女がここにいるかわからず叔父に視線を向けた。

「人手が足りなかったから、数日前に採用したんだ」

「え?」

「ほら、経理担当者も退職が決まっているだろ? その補填だ」

 たしかに叔父の言う通りだが、経費削減の観点からしばらくはほかの事務員と協力し合って様子を見ようと決めていたはず。仕事の内容も効率重視で業務化を目指してきたため、どの業務も誰でも臨機応変に対処できるようになっている。

 私が不在の間に採用の方針に変わったとしてもおかしくはないけれど、それにしても決定が早すぎる。

「これで悠里ちゃんも少しは楽ができるだろう」

 父の病気が発覚してから今日まで、時間の融通を聞いてもらったり休んだりしていた手前、強く出られない。
 社長になった叔父は乗り気のようだし、と周囲に視線を巡らすと、不自然な様子で逸らされてしまった。

「私、がんばりますから! 先輩はゆっくりしていてくださいね」

「え、ええ。ありがとう」

 ここのところめまいや立ち眩みがあり、体調が万全ではない。食欲も相変わらずない。彼女がいてくれたら助かるのも事実だ。

「できるだけ早めに、宮野君に仕事を教えてやってくれ。まあ、前職も事務だったようだし、それほど苦労はしないだろう。頼んだよ、悠里ちゃん」

 なんだか私はいなくてもいいような空気を感じるのは気のせいだろうかと思いかけて、小さく頭を振る。父を亡くしてきっと心が弱っているのだろうと、ため息まじりに自分の席に着いた。
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