すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 通帳をよく見たくて、受け取ろうと手を伸ばす。叔父はそれを避けながら不快な顔をした。

「今現在、兄さんには容疑がかけられている」

 父は絶対にそんなことをしていない。そう確信しているが、それを証明する手段はなにもない。

「その娘である君を、百パーセント信用することはできない。悠里ちゃんも、不正に関わっていた可能性がある以上、証拠に触れさせるわけにはいかない」

「私も父も、不正なんてしていません」

 身に覚えのない疑いに、必死で反論する。勢い込んだせいか胃の奥がむかむかしたが、無理やり抑え込んで叔父と向き合う。

「口ではなんとでもいる。こっちにはこうして証拠があるんだ」

 これまでにない厳しい口調で言われ、ビクリと体が揺れる。

「今はまだ、私以外にこの話を知る人間はいない。事を公にされたくなければ、悠里ちゃんには会社を辞めてもらおうか。君が二度とこの会社に近づかないと約束すれば、実家を手放したお金などで私が秘密裏に損失を補填してなかったことにしておいてもいい」

「そんな……」

「死んだ父親を犯罪者にしたくなければ、とるべき行動はわかるはずだ。君だって犯罪者の娘……いや。共犯の疑いがかけられるんだ」

「犯罪者」

 急な話に頭がついていかない。
 そんな中で、叔父の放った〝犯罪者〟という言葉だけが頭にこびりついて離れなくなる。

 ずっとこらえていた涙がジワリと滲み、叔父に見られないように顔をうつむかせた。

「……私が会社を辞めれば、公にせずに片づけてくれると?」

 亡くなった人に、真実を問いただすなんてできない。

「ああ。私だって兄さんを慕ってきたんだ。一度の過ちくらい、なかったことにしよう」

 父は罪を犯してなんかない。それは信じているけれど、ここで私が叔父の言い分を受け入れなければ、世間から疑いをかけられてしまう。いつかそれが張らされたとしても、仕事ひと筋で会社を守ってきた父に一度でもそんな濡れ衣を着せるなんて耐えきれない。
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