すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「……わかりました。叔父さんに、従います」

 ここを辞めてどうするのか、先のことなんてまったく考えられない。でも、表向きだけとはいえ父の名誉を守りたかった。

「ものわかりがよくて助かるよ。私だって兄さんを犯罪者になんてしたくないんだ」

 繰り返される〝犯罪者〟という言葉に、どんどん追い詰められていく。

「これだけは忘れないでいてほしい」

 まだなにかあるのかと、視線を上げる。

「いくら不正を隠せたとしても、私の認識では兄さんも君も犯罪者なんだ。これでもう大丈夫だなどと、甘い考えは持たないように」

「それは……」

 反論しかけた私を、叔父が手で制す。

「もし君が変な気を起こすようなら、この件はすぐさま公にする。いいか、君にも容疑がかかっているんだ。下手なことはしないように。ここ最近、兄さん知り合いと仲良くしているようだが――」

 それはもしかして、柴崎さんのことだろうか。父が叔父に彼の話をしていたのかもしれない。

「立場のある人は、犯罪絡みの話を嫌うだろうな。足を引っぱられかねないからな」

 私はなにもしていない。そう言い返せない悔しさに唇を噛みしめる。根拠のない否定など、通用しない。

「私だって、かわいい姪を擁護したい気持ちはあるんだ。せめて悠里ちゃんがおとなしくしている間は、君を守ってあげるよ」

 一方的に決めつけておいて、守るなんて白々しい。そんな怒りをのみ込んで、さっと立ち上がった。

「お世話に、なりました」

「ああ。もう二度と、この会社に近づかないように」

 持って帰りたいようなものなど、ここにはなにもない。誤って備品でも持ち出そうものならますます悪者にされそうで、自身のデスクにも立ち寄らないまま会社を後にした。
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