すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 膝を抱えて座り直す。

 父には大学まで出してもらったとはいえ、その後はすぐに川島金属機器で働きだしているため、それ以外の場所でやっていく経験が乏しい。頼りにできる伝手もない。

 いずれにせよどこかで仕事を見つけなければ、この先生きていけない。
 会社に関わるなと言われているし、できるだけ遠くへ行こうと思う。それに、もう二度と叔父の顔を見たくなかった。泣き寝入りは悔しいが、やっぱり父の名誉だけは汚したくなかった。

 チラリと窓の外に目を向けると、いつの間には陽が傾きかけていた。今夜こそちゃんとしたものを口にしないとと立ち上がったそのとき、吐き気が込み上げてきて慌ててお手洗いに駆け込んだ。

「どうしちゃったんだろう」

 水道で口をゆすぎ、目の前の鏡映る自身を見つめる。
 もとから色白だった肌は、青白くいかにも不調そうに見える。
 少しやせたかもしれない。このところろくな食事をとっていなかったせいか、肌が若干荒れてしまっている。

「はあ」

 今にも倒れそうな顔をしている。心もからもボロボロで、気を抜けば不意に涙がこぼれそうになる。

 その後、なんとか用意した食事を前にして再び吐き気が込み上げてきた。

「あれ?」

 ここのところバタバタしていたせいで忘れていたが、そういえば長く生理がきていないと今さらながら気づく。

「まさか……」

 下腹部を見下ろし、そこにそっと手を当てる。

「妊娠、してる?」

 体の関係をもったなんて、後にも先にも柴崎さんだけだ。
 父のこともあって落ち込んでいるせいだと思っていたけれど、食欲の不振もめまいも吐き気も妊娠初期にはありがちな症状だと聞いたことがある。

 それまでとは違う不安が大きく膨れ上がる。ともかく体調を整えないことには動きだすことができないと、翌日に病院を受診しようと決めた。
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