すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 読み終るとすぐにスマホの電源を落とし、ぐっと瞼を閉じた。

 これは仕方のないことだと、自分に必死で言い聞かせる。
 私が勝手に柴崎さんを好きになって、いろいろと期待していただけ。だから彼を責めるのはお門違いだし、そもそも横領の疑惑のある私はあの人にふさわしくない。

 生活が落ち着いたら柴崎さんに連絡を入れてみようかと考えていたけれど、それは迷惑になるだけだ。ほかの女性との結婚が決まった彼に、妊娠の話なんてできるわけがない。ふたりの関係どころか、二社の信頼関係にひびを入れるつもりかと悪者にされかねない。本当に彼の子かなんて疑われたらとおもうと、怖くてたまらなかった。

 彼とは、もう二度と連絡を取らない。

「忘れられたらいいのに……」

 いつまでも彼への想いを引きずっているわけにはいかない。

 早く生活を安定させたいし、叔母に頼りっきりではいられない。
 気持ちに区切りをつけるのは苦しくてたまらないが、そうしないといけないのもわかっている。

 生まれてくる子どものことを考えたら、吹っ切って前を向くべきだ。

 そう決意した私は、イタリアに到着して早々に、柴崎さんとのつながりを断ち切るために使用していたスマホの解約手続きをした。
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