すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「今日は、昼過ぎから納入先に行ってもらうんだったわね」

「うん」

 光太を保育園に預けるようになり、自分の希望した通り叔母の仕事の手伝いをさせてもらっている。

 午後から向かう先は、少し前に叔母のデザインした椅子とテーブルを納入したカフェだ。使用感や気づいたことなど、いろいろと話しを聞かせてもらう予定でいる。

 時間になり、外出の準備をする。八月のベネチアはとにかく日差しが強いため、帽子やサングラスなど紫外線対策が欠かせない。

「帰りが遅くなるだろうから、途中で光太君を迎えに行って、そのままうちで夕飯を食べていきなさいね」

「ありがとう。それじゃあ、行ってきます」

 甘えてばかりではいけないけれど、身内だからこそこうして融通が利いてありがたい。叔母が仕事に余裕のある時は、こうして夕飯にも招待してくれる。

 私がまだ小学生の頃の父との暮らしは、料理に苦戦していたことを思い出す。
 父はそれほど料理が得意ではない上に、わたしもまだ火を触らせてもらえなかった。
 焦げるのも味が薄すぎるのも、頻繁だった。そんな失敗を笑い飛ばす時間は、子ども心に楽しかったと覚えている。

 シングルマザーになって、父の大変さを本当の意味で実感している。自分に明確な反抗期こそなかったものの、思春期の娘への対応は父も戸惑ったに違いない。

 自分がそうしてもらったように、私も光太を愛情いっぱいに育てていきたい。決して、寂しい思いをさせることなく。
< 95 / 183 >

この作品をシェア

pagetop