すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「ん、しょっと」

 それにしても重くなったものだと、抱っこひもの中の光太を抱え直す。

「もっと体力づくりしないとなあ」

 光太は身長と体重が平均より少し大きめで、こうして長時間抱っこをし続けるのもなかなか厳しくなってきた。
 ふっくらとした赤ちゃんらしさは今も残っているものの、光太はほかの子と並ぶとシュッとして見える。このサイズ感やスタイルは、もしかしたら高身長の父親譲りなのかもしれないと考えてしまう。

 顔立ちはころころ変わって見えるが、こうして間近から覗き込むとこのシャープな鼻や唇は彼に似ている。

 そこまで考えて、ダメだと頭を左右に振った。

「ん、ん」

 かまってくれというように声を発した光太に、笑みを向ける。

「今日はノンノたちとご飯だよ、ノンノ」

 早くセルジオをそう呼べるように、私も頻繁に言うようにしている。

「ノンン……」

 光太には発音が難しいようだが、もうひと息で呼べそうだ。

 光太の頭をひとなでして、家路を急ぐ。

 柴崎さんとはもう二度と会わない。そう決めたのは自分だ。
 だから父親に関しては叔母とセルジオ以外には明かさず、光太は私の子だとだけ言い続けてきた。

 おそらく柴崎さんは、あのニュースに出ていた女性と結婚するのだろう。会社の事情も絡んでいるのなら、そうするのが当然だ。あるいは、すでに結婚して家庭を築いている可能性だってある。

 私や光太の存在は、彼にとって迷惑にしかならない。もちろん、彼らの間に割って入るつもりは微塵もない。
 それになにより、私や父には横領の疑惑がかけられたままのはず。そんな危うい立場にある自分が近づくなど悪影響でしかない。

「もう考えないって決めたじゃない」

 必死に暮らしている中で、柴崎さんとの思い出も気持ちも少しずつ薄れていった。
 けれど完全にはなくなってくれなくて、時折こうして私を苦しめる。
 暗くなりかけた思考を振り払い、前を向く。
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