すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「んん」

 光太が不満げな声を上げながら、身をよじった。

 抱っこひもの中にいることが嫌になったのか、それともお腹が空いているのか。どちらにしろ、街中でまだヨチヨチ歩きの子を降ろすのは危険だ。

「光太、ごめんね。もう少し我慢して」

「んん、んっ」

 背を逸らして、必死で不快をアピールしてくる。
 彼が手にしていたぬいぐるみを一緒に掴み、顔の前で振ってみたが少しも靡いてくれない。ついには、泣き出してしまった。

 ここのところ、思い通りにいかないと長くぐずることが増えた。これも成長のひとつだろうけれど、なかなか手ごわくて困ってしまう。

 光太は大きな声をあげながら、嫌々と首を振った。手足をバタバタさせ、さらに背を目いっぱい反らせて訴えてくるから支えるこちらもたまったものではない。

「ほら、光太。ぬいぐるみがあるじゃない。ね?」

 もう一度ぬいぐるみでご機嫌取りをしようとしたが、見向きもせずに手で振り払われてしまった。

「あっ」

 ぬいぐるみが、手から離れていく。
 しまったと光太を支えながらなんとか振り返ると、背後にいた人が拾ってくれていた。

『すみませ――』

「悠里?」

「え?」

 光太から目を離せず、相手の顔を見る前から謝罪しかけたところ、聞こえた日本語と名前を呼ばれたことに驚いて視線を上げた。
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