酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜
「騎士団のみんな! その筋肉は何のためにあるの!?」

「「「領民を守るためであります!!」」」

「よろしい! なら今すぐこのリンゴを握り潰しなさい!!」

 動員されたのは、非番の騎士たちだ。
 彼らは巨大な木の桶を囲み、洗ったリンゴを次々と放り込んでいく。

 そして、己の腕力のみでリンゴを粉砕していくのだ。
 原始的すぎる圧搾機である。

 バキッ、グシャッ、ブシューッ!

「おりゃぁぁぁ!」
「ふんぬぅぅぅ!」

 飛び散る果汁。
 むせ返るような甘い香り。
 桶の底には、黄金色のジュースがなみなみと溜まっていく。

「よし、そこまで!」

 私は桶の前に立つと、たっぷりと溜まった果汁を見下ろした。
 このまま飲んでも美味しいジュースだ。
 だが、私の狙いはその先にある。

「いでよ、酵母菌たち。リンゴの糖分を喰らい尽くし、至高の雫へと変貌せよ!」

 私は両手をかざした。
 発動するのは、もはやお馴染みとなりつつあるスキル『聖女の発酵』。

 カッ!

 私の手から金色の粒子が降り注ぐ。
 それは果汁の中に溶け込み――

 ポコッ。
 ポコ、ポコポコッ。

 桶の底から、小さな気泡が立ち上り始めた。
 発酵が始まった合図だ。

 本来なら数週間かかるプロセスを、数分に圧縮する。
 甘いジュースの香りが、次第にツンとしたアルコールの香りを含み始める。
 液体が白濁し、表面にシュワシュワとした泡の層ができる。

「……できた」

 私は柄杓ですくい上げた。
 
 微発泡リンゴ酒――『シードル』の完成だ。

「さあ、みんなコップを持ってきて! 試飲会よ!」

 農夫たちがおっかなびっくり、コップを差し出した。
 そこに黄金色の液体を注いでいく。

「あ、アルコール度数は低めだから、お酒に弱い人でも大丈夫」

 農夫の代表であるお爺さんが、震える手でコップを口に運んだ。

 ごくり。

 その瞬間。
 お爺さんの目が見開かれた。

「…………なんじゃ、こりゃあ!!」

 彼は叫んだ。

「口の中で……弾ける! シュワシュワするぞ!」

 そう。
 このシードルの醍醐味は、発酵由来の天然の炭酸ガスだ。
 心地よい刺激が舌を叩き、その直後にリンゴの爽やかな酸味と、優しい甘みが広がる。
 後味はすっきりとしていて、雪景色の中で飲むには最高の一杯だ。

「うめぇ! なんだこれ、ジュースみてぇにゴクゴクいけるぞ!」
「体がポカポカしてきた!」
「これが、俺たちの作ったリンゴなのか……?」

 あちこちで歓声が上がる。
 騎士たちも「うめぇうめぇ」と筋肉を揺らして飲んでいる。

「これなら……売れる! いや、生で売るより高く売れるぞ!」
「俺たちは助かったんだぁぁぁ!」

 農夫たちが抱き合って喜んでいる。
 その中心で、私は満足げに自分の分のシードルを煽った。

 ぷはーっ!
 昼間から飲む酒、最高!

「……女神様だ」

 誰かが呟いた。

「豊穣の女神様だ! 捨てられるはずだったリンゴを、黄金に変えてくださった!」
「アマレッタ様万歳! 女神様万歳!」

 わあぁぁぁっと沸き起こる拍手喝采。
 地面に額をこすりつけて拝む者までいる。

「いや、だから違うってば。私は、お酒が飲みたかっただけで……」

 私の弁解は、熱狂的な賛美の声にかき消された。
 ヒャルマール団長に至っては、「これが、聖女の奇跡……!」と男泣きしている。

 うーん。
 まあ、美味しいお酒が確保できたから、いっか。
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