祝福のあとで
グラスが運ばれてきて、
二人は軽く持ち上げた。
「お疲れさまでした」
「お疲れさまです」
グラスが触れ合う音は、
店内のにぎやかさにすぐ溶ける。
一口飲んで、
ひかりは肩の力が抜けるのを感じた。
「今回の式、いい雰囲気でしたね」
「新郎新婦が、穏やかな方でしたから」
「進行も綺麗でした」
「そちらの判断が早かったので」
仕事の話。
それだけで、会話は途切れない。
式場あるある。
無茶な要望の話。
昔と変わらない業界の愚痴。
「相変わらず、冷静ですね」
あきが、ふと笑う。
「そうですか?」
「感情で動かないところ」
「昔から、ですよ」
ひかりは軽く返す。
それを聞いて、
あきはグラスを回した。
「……そうでしたね
専門の頃も」
ひかりの指が、
一瞬だけ止まる。
「徹夜明けでも、
進行表だけは完璧で」
「懐かしいですね」
笑って返したつもりだった。
でも、
胸の奥が、少しだけ静かになる。
「当時は」
あきは、ひかりを見ないまま続けた。
「正直、仕事ばかりだなって思ってました」
責める言い方じゃない。
「今なら、わかります
それが、ひかりの強さだったって」
ひかりは、何も言わない。
グラスの氷が、
小さく音を立てた。
「今日、一緒に仕事して」
「やっぱり、
馬が合うなって思ったんです」
そこで初めて、
あきが視線を上げる。
「前は、それが理由で
うまくいかなかったけど」
「今なら、違う気がして」
言葉を選びながら、
でも逃げない。
「……やり直さないか」
静かな声。
店のにぎやかさが、
一瞬、遠くなる。
正しい言葉だと思った。
間違っていない。
合理的で、現実的で。
昔のひかりなら、
少し嬉しかったかもしれない。
それでも。
胸の奥は、
驚くほど静かだった。
ひかりは、
すぐに答えなかった。