祝福のあとで
店を出て、
夜の空気に触れたとき、
ひかりはようやく息を吐いた。
——昔のひかりなら、
少し嬉しかったかもしれない。
それでも。
胸の奥は、
驚くほど静かだった。
歩きながら、
その感覚を確かめる。
否定でも、拒絶でもない。
ただ、もう戻れない場所があると、
静かに理解しただけ。
気づいたときには、
足が、いつもとは違う方向へ向かっていた。
理由を考える前に、
体が先に動いていた。
Bar Afterの灯りが、
通りの先に見える。
ひかりは、
その前で立ち止まった。
扉の向こうから、
かすかに聞こえるグラスの音。
入る理由は、ない。
入らない理由も、ない。
ただ、
ここに来てしまった。
ひかりは、
しばらくその灯りを見つめてから、
深く息を吸い、
扉に手を伸ばした。
決めた、というほどのものじゃない。
ただ、
立ち止まっている方が、落ち着かなかった。
扉を開けると、
木の香りと、低く流れるジャズが迎える。
いつもの空気。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥で、
直が顔を上げた。
一瞬、目が合う。
驚きは、ほんのわずか。
でも、
すぐにわかるくらいの間があった。
「……おかえりなさい」
その一言で、
胸の奥に残っていた静けさが、
少しだけ形を変えた。
ひかりは、
何も言わずにカウンターへ向かう。
いつもの席。
直は、何も聞かない。
ただ、
軽めのグラスを取り出した。
「今日は、強くない方がいいですか」
「はい」
短い返事。
それだけで、
十分だった。
グラスが置かれる。
氷の音が、
ゆっくりと響く。
ひかりは、一口飲んでから、
小さく息を吐いた。
——ああ、やっぱり。
夜の空気に触れたとき、
ひかりはようやく息を吐いた。
——昔のひかりなら、
少し嬉しかったかもしれない。
それでも。
胸の奥は、
驚くほど静かだった。
歩きながら、
その感覚を確かめる。
否定でも、拒絶でもない。
ただ、もう戻れない場所があると、
静かに理解しただけ。
気づいたときには、
足が、いつもとは違う方向へ向かっていた。
理由を考える前に、
体が先に動いていた。
Bar Afterの灯りが、
通りの先に見える。
ひかりは、
その前で立ち止まった。
扉の向こうから、
かすかに聞こえるグラスの音。
入る理由は、ない。
入らない理由も、ない。
ただ、
ここに来てしまった。
ひかりは、
しばらくその灯りを見つめてから、
深く息を吸い、
扉に手を伸ばした。
決めた、というほどのものじゃない。
ただ、
立ち止まっている方が、落ち着かなかった。
扉を開けると、
木の香りと、低く流れるジャズが迎える。
いつもの空気。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥で、
直が顔を上げた。
一瞬、目が合う。
驚きは、ほんのわずか。
でも、
すぐにわかるくらいの間があった。
「……おかえりなさい」
その一言で、
胸の奥に残っていた静けさが、
少しだけ形を変えた。
ひかりは、
何も言わずにカウンターへ向かう。
いつもの席。
直は、何も聞かない。
ただ、
軽めのグラスを取り出した。
「今日は、強くない方がいいですか」
「はい」
短い返事。
それだけで、
十分だった。
グラスが置かれる。
氷の音が、
ゆっくりと響く。
ひかりは、一口飲んでから、
小さく息を吐いた。
——ああ、やっぱり。