執愛滾る脳外科医はママと娘を不滅の愛で囲い込む
 結局それ以降、蓮斗くんとは顔を合わせてはいない。
 というのも母が無事に退院し、私自身病院に通うことがなくなったから。退院日も仕事の都合で休めなくて、弟が母を迎えに行った。なので、主治医の蓮斗くんに最後にお礼や昔の件の謝罪も伝えられなかった。それが少し心残りではある。
「髪型、素敵じゃない」
 キッチンから明るい母の声がして、意識がそちらに流れた。
()(すみ)にやってもらったの」
 香澄は高校の同級生で、今でも頻繁に会う仲だ。彼女は美容室を経営していて、私も定期的に通わせてもらっている。今日は夕方から開かれる大学時代の友人の結婚式に参列するので、ヘアセットをお願いした。本当はそのまま会場に向かう予定だったけれど、スマホを家に忘れたことに気づき、戻ってきたところだ。
「あら、そうなのね」
 母は現在、仕事を休み自宅で療養中。私もしばらくは実家から仕事場に通うつもりでいる。
「ねっ。すごいよね」
「香澄ちゃん子どもを産んでからもバリバリ働いていてパワフルよね。そういえば、雪(ゆき)ちゃんも子どもが生まれたとか。近所の()()ちゃんも来年結婚が決まったらしいわ」
 うぅっ。
 こんな話題になると向かう先が目に見えて、思わず苦笑いしながらそっと椅子から立ち上がる。
「瑠璃もそろそろ……」
 ほら、やっぱりきた。
「その話はまた今度ね。そろそろ出なきゃ」
 そそくさと家を出て、最寄り駅からタクシーへと乗り込む。
 ぼんやりと窓の外に目を向けると、やけにカップルの姿が目についた。
 みんな幸せそうだなぁ。
 私だって結婚願望がないわけじゃない。子どもだって好きだから欲しい。
 それに今回母が倒れたことで、いつなんどき状況が変わるか分からないのだと身に染みるほどに実感した。だからこそ、母が元気なうちに孫の顔を見せてやりたいとは思っている。
 でも、肝心な相手がいないのだからどうにもならない。
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