【完結】転生したら、退場予定の悪妃になりまして
 フレンが生まれる前にエメリアが置いていったもの。

(後はどうやって……)

 扉が開くのに気づいて、咄嗟に引き出しの奥に隠れる。ギルフォードが戻ってきた。

「……なんだ?」

 彼が、開いている引き出しを見た。
 眉をひそめたところで、扉が叩かれる。

「陛下、もうお休みになりませんか」

 声をかけたのは、寝る支度を整えた『エメリア』だ。いつのまにか夜も深くなっていた。

 こそりとそちらを覗くと、微笑んだ彼女がギルフォードの手を取るのが見えた。

「フレンも大きくなりましたし、夫婦なのですから、そろそろ一緒の部屋で寝ましょう?」

 『エメリア』の意見にギルフォードが頷く。

「確かに」

(陛下! 初夜で自分が言ったことを思い出して!)

 次いで彼女は、少し視線を落とした。

「それと……返していただきたい書類がありまして……」
「書類?」
「私が渡した、離縁状のことです。もう必要ないでしょう」
「……ああ」
「私が、処分しておきます」

(まずい!)

 『エメリア』の言動を見ていると、こちらの意識が優位だったときの記憶はあるようだ。
 ギルフォードが引き出しに入っている離縁状に伸ばした手に、エメリアは咄嗟に飛びついた。

(これだけは、ダメ!)

「――っ」

 その瞬間、ギルフォードの動きが止まる。
 見上げると、彼はしっかりとこちらを見て瞬きをしていた。エメリアは必死に首を振る。

「陛下?」

 ギルフォードが『エメリア』を見る。そしてもう一度こちらに視線を向けた。

 離縁状を『エメリア』に取られてはもうおしまいだ。ギルフォードの指を強く掴んだ。

「…………、すまない、少し緊急の用事があるので席を外してもらえないか。離縁状は後で持っていく」

 さすが皇帝。
 不測の事態にも表情を変えずにそう言った。
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