【完結】転生したら、退場予定の悪妃になりまして
 その、少し前。

 留学生としての本日の学びを終えたイヴァンは、王宮の廊下を歩いていた。

「……っ、……」

 押し殺したような泣き声が聞こえてきたのは、中庭の四阿のそばを通りかかったとき。

 そっとそちらをうかがうと、部屋の中で膝を抱えて泣くフレンを見つけた。

 近づいても顔を上げない彼女の周りには、心配そうに様子を伺う妖精たちの姿がある。
 イヴァンが中に入ってフレンの隣に座ると、彼女は小さな声で言った。

「……おかあさまにきらわれました……もう、一緒に寝ないって」

 そう言って声をおさえて泣く姿は、元気な姿を知っているだけに痛々しい。
 同時に、羨ましくもある。自分は物心ついたときにはもう一人で夜を過ごしていたから。

 イヴァンは彼女の小さな頭を撫でた。

「皇妃殿下はそんなことで怒る方ではないよ。なにか、理由があるのだと思う」
「りゆう……」

 フレンが顔を上げた。
 じっとイヴァンを見るその目が、涙に濡れてキラキラ光っていた。
 不謹慎ながらそれに見惚れていると――フレンは、目を半眼にした。

「おかあさまのこと、知ったかぶりしないでください」
「たまには素直にお礼が言えないのかい?」

 そんないつも通りのやりとりをすれば、フレンが少しだけ笑ってくれた。

(本当に、皇妃殿下はどうしてしまわれたのだろう)

 まるで人がそのまま変わってしまったようだ。
 そこまで考えてふと気づく。

「……もしかして、村の人と同じように悪い妖精がイタズラしているということはないかな」
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