【完結】転生したら、退場予定の悪妃になりまして
ふと気づくと、暗くて濃い霧が漂っている場所にいた。
沼地のように足を絡めとろうとするその奥に、うずくまる『エメリア』がいた。
目覚める方法はわかっている。愛する者とのキスだ。
けれどその前に、したいことがあった。
「……ひどい」
近づくと、『エメリア』は顔を手で覆って泣き出した。髪は乱れて痩せている。
「どうして私ではだめなの……あなたばかり、愛されて」
愛する夫に振り向いてもらえなくて辛くて、娘にその鬱屈を向けた『エメリア』。
エメリアはその彼女の前に立った。
「こんな皇妃、おかしいのに、なんで……なんで」
『エメリア』は小さくなっていく。
そこで、ああ、これは別人ではないのだと悟る。
エメリアが前世の記憶を思い出したときに、無理に封じた自分だ。
箱入り娘で世間のことを何も知らなくて、ただの政治の道具として嫁いで――王宮から飛び出すことを思いつくことすらできなかったあの頃の。
その前に膝をついて、自分に問いかけた。
「ええ、皇妃としては失格ね。でも、楽しくなかった?」
「――楽しかったけどぉ」
「よかった」
あなたをこんなところに置きっぱなしにすることにならなくて。
「私はあなたで、あなたも私なんだから、仲良くしたいんだけどな」
エメリアは沼地から自分を引っ張った。
髪を乱した『エメリア』が、顔を上げるのに笑いかけたところで、ふと、温かい気配がした。
頬と、額だ。