【完結】転生したら、退場予定の悪妃になりまして
「……先ほど、挨拶をしている皇女殿下を手放しで褒めている貴女を見ました。羨ましいです」

 そうして少しだけ時間をかけて、イヴァンが口を開いた。

「父には、大勢の妃と子がいます。他の兄弟はまだ小さいですが……。僕は第一王子とはいえ立場は盤石ではありません。母は、それを心配しているのだと思います」

 慎重に言葉を選んで話す姿は、むしろいろいろなものをエメリアに伝えてくる。

(ああそうだ、原作のフレンと同じように、イヴァン殿下も……)

 与えられなかった愛に飢えているのだ。

 兄弟の数だけ政敵も多くなる。
 イヴァンの母は身分が低いため、どうしても立場は危うくなってしまう。暗殺未遂も起こっているはずだ。

 聡明な彼はすでに、誰にも隙を見せられないことを自覚している。

「殿下」

 エメリアはその場に膝をついた。
 立っているイヴァンとそれで目線がほとんど同じになる。
 戸惑う表情のイヴァンに、エメリアは微笑んだ。
 
「……では、この国にいる間は、僭越ながら私を母と思って甘えてください」
「皇妃殿下を? そ、そんなことできません!」
「できれば、殿下の力になりたいのです。フレンのためにも」
「皇女様の、ためにも……?」
「ええ」

 確信をもってうなずくが、まだイヴァンの顔はくもったまま。

「……甘え方が、わからないのです」

 彼はぽつりと呟いた。
 それは本当に途方に暮れている表情だった。
 子どもの身で、胸にそれだけの穴を抱えているのだ。

 それを癒すのは、フレンの役割。

 出会う前に死んでいるエメリアができることなど何もない。何もせず、彼をこのまま国に帰して、あと十数年を待つべきで――。

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