【完結】転生したら、退場予定の悪妃になりまして
そう、今日からフレンの勉強が始まる。
歴史や帝王学に先駆けて、礼儀作法と妖精について少しずつ学ぶとギルフォードが決めた。
エメリアも賛成だ。これからのために、できることは多いほうがいい。
「では二人がそろそろ起きると思いますし、することもあるので私はこのへんで……」
「待て。まさか寝起きにおはようと言う気か、まだ話は」
「失礼いたします。教授、何か必要なものがあればなんでもおっしゃってくださいね」
そう言って、ギルフォードを置いてエメリアはそそくさと温室を出た。
外には、書類を手にした文官や重臣がずらりと並んでいた。どうやら皆を待たせてしまったらしい。
諭されていた内容が内容だけに――聞かれてはいないだろうが――彼らに愛想笑いをして、その場を後にする。
(忙しいなら、誰かに伝言すればいいのに)
そんなことを思いながら、エメリアはようやく大きく息を吐いた。
先ほどのギルフォードの近さや体格を思い出しそうになって、頬をぺしぺしと叩く。
(いつも鍛えているのかしら。あまり服の上からではわからないものね)
フレンも、村で泥んこで過ごしたのがよかったのか健康優良児そのものである。
貴族の子どもは特に、スプーンよりも重いものを持つこともないように育てられるから、身体が弱いことが多い。
日に当たらない白い肌、ほっそりとした身体がステータスとなるから、病気にどうしても弱くなる。
エメリア自身も何度も熱で生死の境をさまよったことがあった。
病にかかり、命を落とす場合が多いから、王族や貴族はなるべく子をなすべきという風潮がある。
(だから、特に王族には側妃や妾妃が認められているのよね)
むしろ歴代で考えれば、エメリア以外妃がいないギルフォードの状況が珍しい。
「側妃、か……」
知らずエメリアは小さく呟いた。
◇
教授は温室から出るエメリアの背を見送った。
ゆるく三つ編みに編んだ金色の髪。簡素な服を着ていてもその美しさは隠しきれていない。
その後ろにはそっと護衛がついていた。皇帝の執着がわかるというものだ。
そこで、いつも連れている者とは違う妖精が、ふわりと温室にやってきた。
愛し子――フレン――についている子だ。
彼が教授に言う。
『妖精王、直々に来られたんですね』
『ああ。たわむれに人間に擬態して数十年。こんな風に役に立つとは思わなかった』
(それにしても)
教授――妖精を統べる妖精王は愛し子の母を見た。
美しく聡明で、己の立場を理解し、なによりフレンのことを大事に思っている。その仲のよさは妖精を通してずっと見ていた。
二人への気持ちは祖父に近い。
森羅万象をつかさどり、過去未来を見通す力を持っている彼は髭を撫でた。
(残念だ。母君が、あと二年で死んでしまうとは……)
ベッドに横たわって衰弱しているエメリアの隣で泣きじゃくるフレンの未来を予知して、妖精王は顔をしかめてため息をついた。
歴史や帝王学に先駆けて、礼儀作法と妖精について少しずつ学ぶとギルフォードが決めた。
エメリアも賛成だ。これからのために、できることは多いほうがいい。
「では二人がそろそろ起きると思いますし、することもあるので私はこのへんで……」
「待て。まさか寝起きにおはようと言う気か、まだ話は」
「失礼いたします。教授、何か必要なものがあればなんでもおっしゃってくださいね」
そう言って、ギルフォードを置いてエメリアはそそくさと温室を出た。
外には、書類を手にした文官や重臣がずらりと並んでいた。どうやら皆を待たせてしまったらしい。
諭されていた内容が内容だけに――聞かれてはいないだろうが――彼らに愛想笑いをして、その場を後にする。
(忙しいなら、誰かに伝言すればいいのに)
そんなことを思いながら、エメリアはようやく大きく息を吐いた。
先ほどのギルフォードの近さや体格を思い出しそうになって、頬をぺしぺしと叩く。
(いつも鍛えているのかしら。あまり服の上からではわからないものね)
フレンも、村で泥んこで過ごしたのがよかったのか健康優良児そのものである。
貴族の子どもは特に、スプーンよりも重いものを持つこともないように育てられるから、身体が弱いことが多い。
日に当たらない白い肌、ほっそりとした身体がステータスとなるから、病気にどうしても弱くなる。
エメリア自身も何度も熱で生死の境をさまよったことがあった。
病にかかり、命を落とす場合が多いから、王族や貴族はなるべく子をなすべきという風潮がある。
(だから、特に王族には側妃や妾妃が認められているのよね)
むしろ歴代で考えれば、エメリア以外妃がいないギルフォードの状況が珍しい。
「側妃、か……」
知らずエメリアは小さく呟いた。
◇
教授は温室から出るエメリアの背を見送った。
ゆるく三つ編みに編んだ金色の髪。簡素な服を着ていてもその美しさは隠しきれていない。
その後ろにはそっと護衛がついていた。皇帝の執着がわかるというものだ。
そこで、いつも連れている者とは違う妖精が、ふわりと温室にやってきた。
愛し子――フレン――についている子だ。
彼が教授に言う。
『妖精王、直々に来られたんですね』
『ああ。たわむれに人間に擬態して数十年。こんな風に役に立つとは思わなかった』
(それにしても)
教授――妖精を統べる妖精王は愛し子の母を見た。
美しく聡明で、己の立場を理解し、なによりフレンのことを大事に思っている。その仲のよさは妖精を通してずっと見ていた。
二人への気持ちは祖父に近い。
森羅万象をつかさどり、過去未来を見通す力を持っている彼は髭を撫でた。
(残念だ。母君が、あと二年で死んでしまうとは……)
ベッドに横たわって衰弱しているエメリアの隣で泣きじゃくるフレンの未来を予知して、妖精王は顔をしかめてため息をついた。