【完結】転生したら、退場予定の悪妃になりまして
(父親とは、何をすればいいんだ)

 執務室で仕事をしながら、ギルフォードは苦悩していた。



 己の父……先王のことはあまり知らない。
 公務で一緒になることはあっても、ギルフォードは父に抱かれたことも、遊んでもらったこともなかった。
 母は世話は乳母に任せて、社交界を遊び回っていた。

 王族の夫婦、親子というのはそういうものだと言い聞かされていたし、それでいいと思っていた。

 皇太子の母という地位に甘え、湯水のように金を使った母は、父とともに視察に出た馬車の事故で亡くなった。

 ギルフォードが十五歳のときである。

 彼はその後、兄弟との熾烈な王位争いを経て皇帝の座についた。



「……」

 ふと窓の外を見ると、ちょうどエメリアが中庭に出てくるところが見えた。

 木漏れ日に、艶やかなプラチナブロンドの髪が光る。
 彼女は中庭のテーブルセットに、どっさりとクッキーの積まれた皿を置いた。

 その彼女に、講義を終えたらしいフレンが嬉しそうに駆け寄る。

「…………」

 フレンの頭を撫でる、慈愛に満ちたエメリアの表情は、ギルフォードには当たり前だが向けられたことはない。
 
 王宮に連れ戻したからといって、エメリアがギルフォードに心を許すと思っていたわけではなかった。

 それでも彼女は紛うことなくこの国の皇妃であり、次期皇帝の母であり、自分の妻だ。

 何かして欲しいというわけでもない。
 政務は自分一人で事足りる。

 『家族』など必要ないと思っていた。……けれどフレンとともにいるエメリアを見ていると、そんな自分が揺らぐ。

 こんな感情は初めてだ。
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