【完結】転生したら、退場予定の悪妃になりまして
 公爵家で、あの腹の見えない父の元でエメリアはどんな時間を過ごしてきたのだろう。

 それを鑑みることもできずに、ただ公爵家との定められた結婚に反発して、彼女を冷遇していた自分を改めて恥じる。

「……エメリア」
「はい」

 まっすぐに見返す、緑の目に束の間見惚れる。
 ギルフォードは口を開いた。

「今までのこと、すまなかっ……」
「あー!」

 そこでエメリアは大声を出した。
 思わずびくつくギルフォードの前で、エメリアが廊下の端に膝を突いた。

「この子!」
「……もきゅ」

 エメリアが示す先には、小さな埃の塊のような生物がいた。埃には大きな目が一つついている。

「一瞬だけ見えたのですが、この子が父の杖にぶつかって軌道を逸らしてくれたんです」
「もきゅ」

 埃が少し胸を張るように大きくなる。
 エメリアが手を伸ばすと、埃はそっとその白い手のひらに乗った。

「……」

 確かにギルフォードも視界の端に捉えていた。黒いボールのようなものが杖にぶつかるのを。
 ……おかげで、避け損なって腕に当たったが。

 そんなことはさておき、エメリアはその埃に微笑みかけた。

「ありがとう」
「もきゅもきゅ」

 一つ目の埃は嬉しそうに笑う。ころころと手のひらで転がった。

「もちろん陛下も。庇ってくださってありがとうございました」

 そう言って微笑むエメリアは、窓から差し込む光を受けてまるで女神のように見えた。

(ぐっ……)

 心臓が妙に脈打つ。そんなギルフォードのことなど気づいた様子もなく、エメリアは埃に視線を向けた。

「でもこの子、なんでしょう……初めて見ますがフレンの妖精の誰かかしら。教授も来てますし聞いてみ……」

 そこでふわっと風が吹いて、エメリアの手の上にいた埃が宙を舞う。
 そのまま、廊下の影に隠れて見えなくなった。
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