【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
***


『アンジュ!』


 オーガストがアンジュを抱きしめる。温かい――たくましい腕に支えられ、アンジュの瞳から涙がこぼれ落ちた。


『今まで一体どこに行ってたんだ? 探したんだぞ?』


 頬にキスされ、胸いっぱいに甘い気持ちが広がっていく。


(ああ、夢だな)


 これは夢だ――わかっている。それでも嬉しいと思ってしまう自分が憎らしい。


『俺には君が必要なんだ』


 けれど、オーガストがそう口にしたとき、体の奥底からどす黒い感情が湧き上がった。


「それってあなたにとって都合のいい女だから?」

「――気がついた?」


 と、知らない男性の声がアンジュに答える。見れば、美しい男性がアンジュの顔をじっと覗き込んでいた。色素の薄い金色の髪に、雪のように真っ白な肌。宝石のように輝く紫色の瞳は吸い込まれそうなほど美しく、まるで天会に暮らす神々や天使のように現実味が薄い。


「な……! え?」

「大丈夫? 僕を治療した後、三日三晩寝込んでいたんだよ」

「治療……? あっ!」


 アンジュの意識と記憶がようやくはっきりしてくる。目の前にいるのは馬車に轢かれた男性――ミゲルと呼ばれていた人だ。


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