【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
「助けてくれてありがとう。君のおかげで命拾いしたよ」


 ミゲルがアンジェの手をぎゅっと握る。が、自分の手が真っ黒に汚れていたことを思い出し、アンジュはパッと腕を引いた。


(違う。汚れているのは手だけじゃない)


 顔も体も、心だって、どこもかしこも汚れている。だというのに、シミ一つない綺麗なベッドに眠っていた事実が受け入れがたく、アンジュは急いで体を起こした。


「まだ起き上がらないほうがいい。すごく衰弱しているってお医者様が……」

「いいんです! あたし、平気です」


 恥ずかしさと申し訳なさのあまり、アンジュの頬が熱くなる。どうしてあのタイミングで気を失ってしまったのだろう? 早くここを立ち去らなければ――ふらふらしながらベッドから這い出たが、アンジュは膝から崩れ落ちそうになってしまった。


「ほら、言っただろう? まだ寝ていたほうがいい」

「……ごめんなさい」


 ミゲルに抱きとめられ、アンジュの瞳に涙が滲んだ。


「ごめんなさい。……ごめんなさい。あたし、こんな……こんなふうに優しくしてもらう価値なんてないのに。本当に、ごめんなさい」

「どうして謝るの? それに、君は僕のことを助けてくれた命の恩人だ。価値がないだなんてとんでもない。本当に感謝しているのに」

「だけど……」


 苦しい。悔しい。
 どうしてそう思うのか自分でもよくわからないけれど、この状況が嫌でたまらなかった。


「とりあえず、元気になるまで、この屋敷から出られないから! ゆっくり心と体を休めてよ! ね!」


 ミゲルはそう言うと、ふわりと目を細めて笑った。



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